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福岡高等裁判所 昭和47年(う)296号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人国府敏男作成ならびに弁護人石川才顕、同増田弘磨共同作成の各控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用し、これに対して当裁判所が、本件訴訟記録ならびに原審において取り調べた証拠および当裁判所のなした事実取り調べの結果にもとづきなした判断は、次のとおりである。

以下においては

別府相互タクシー株式会社を相互タクシーと

別府近鉄タクシー株式会社を近鉄タクシーと

別府相互タクシー株式会社代表取締役土谷義則作成の第一次の株券を第一の株券と

同第二次の株券を第二の株券と

別府信用金庫野口支店を信用金庫と

大分銀行流川支店を大分銀行と

それぞれ略称する。

弁護人石川才顕、同増田弘磨の控訴趣意第三点法令適用の誤の主張中行為類型について

所論は要するに、原判決は被告人の行為を有価証券虚偽記入として刑法一六二条二項を適用しているが、被告人らの行為は、有価証券偽造に当るものというべく、原判決には法令の適用の誤りがある、というのである。

案ずるに、原判決は、被告人が相互タクシーの代表取締役古野義之、二宮庸恭ならびに竹田明と共謀のうえ、行使の目的をもつて、既に発行ずみの正規の株券と重複する内容虚偽の同会社社長の印影のある同会社代表取締役土谷芳則作成名義の株券一二六通を作成して有価証券に虚偽の記入をしたとの趣旨の事実を認定し、これに刑法一六二条二項を適用しているが、なるほど共犯の一人古野義之は同会社の代表取締役であるので、同会社を代表する権限があり、本件株券の作成行為は無形偽造との印象を与えなくもないが、原判決の右判断は次の諸点において誤りがあるものである。すなわち

(一)  株券の作成名義について考えると、商法二二五条によれば、株券には(会社を代表すべき)取締役が署名すべきことを法定しているところであるが、株式の発行主体は、同法一九九条の定めるところでは、会社であつて取締役ではないことが明らかである。しかるに、原判決が恰も代表取締役が株券の作成名義であるがごとき表現を用いているのは誤りというほかはない。

(二)  しかして、右のごとく、会社を代表すべき取締役が株券に署名すべきことを法定の要件としていることは、他の必須要件とともに、要式行為としてその方式を厳格に要求されているところであり、かつ、当該会社の代表資格を表示することは、株券の名義人たる会社を特定明示するとともに、その代表資格の表示によつて会社を代表する意思をも表示するものである。従つて会社の代表者が当該会社を代表する資格を有しない第三者の署名を用いて株券を作成することは、当然のことながら、自己の有する会社代表資格とは無緑の行為となり、会社代表権を行使したものと認め得べき余地の全然ない行為であつて、無権限の者がほしいままに会社の作成名義を用いて株券を作成するのと選ぶところがなく、いわゆる有形偽造の行為といわねばならない。しかるに被告人らの本件株券作成行為は、相互タクシーの代表者古野義之の代表名義を用いず、行為当時は既に同会社の代表資格を喪失していた土谷芳則の代表名義を冒用して本件株券を作成したのであるから、会社の作成名義を偽るもので、刑法一六二条一項に定める有価証券偽造に該当する行為といわねばならない。しかるに、原判決が前記のごとく、本件株券作成行為を有価証券虚偽記入と認定したことには、事実を誤認したか法令の解釈適用を誤つた違法があるものである。しかしながら、刑法一六二条一項の有価証券偽造罪と同条二項の有価証券虚偽記入罪とは、法定刑を全く同じくするので、右誤りは結局判決に影響をおよぼすものとは認め難く、判決破棄の理由とはなし難い。

〈その余の控訴趣意に対する判断は省略する。〉

(中村荘十郎 真庭春夫 仲江利政)

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